諫山裕の仕事部屋〈blog〉

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「国に届け」は「自民党に届け」の間違いでは?

 ネタとしてはちょっと古いが、自民党のパンフ「国に届け」のマンガについて。
 参院選が近くなったことで、再び注目を集めているようなのだが……

女子をバカにしている! 自民党のパンフ「国に届け」炎上 「『君に届け』のパクりではない」と党側 (1/3) - ITmedia ニュース
 自民党が作成した若者向けパンフレットが批判にさらされている。今回の参院選(7月10日投開票)は選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられる初の国政選挙とあって、若年層に投票を呼びかけるために作ったものだが、掲載した漫画が逆に「女の子をバカにしている」などの集中砲火を浴びることに……。図らずも“炎上商法”に成功した格好となり、党幹部も強気だ。果たして自民党の得票に吉と出るか、凶と出るか――。

 そのマンガは、以下にある。
18歳選挙パンフレット「国に届け」 | 自由民主党

 マンガは縦書きなのに、左開きになっているという、メチャクチャな構成になっている。
 パンフレットを制作したのは下請けだろうが、こういういい加減さが自民党のいい加減さでもあるのだろう。縦書きの文章を、左から右に書くようなもので、これは「非常識」というのだよ。

 電子ブックの体裁になっているが、見にくいのでページごとに切り出しておく。
「国に届け」1

「国に届け」2

「国に届け」3

「国に届け」4

「国に届け」5

「国に届け」6

「国に届け」7

「国に届け」8

「国に届け」9


 この内容では「国に届け」ではなく、「自民党に届け」だね。主語を間違っている。そもそも自民党が制作した、自民党を支持して欲しいためのパナフレットなのだから、「自民党に届け」でなければおかしいのでは?

 このマンガについては、以下の記事が手厳しい評価をしていた。

「パクリ、男尊女卑」と炎上中の自民党の漫画。ダメっぷりを漫画の専門家に聞いた | 女子SPA!
「ターゲットがハッキリしないのが、批判が大きい理由でしょう。漫画には明確にジェンダーがあります。話の内容も、絵柄も、キャラ設定も、男女で好みがまったく異なるんです。しかしこの漫画はターゲットが男子なのか女子なのかわからないので、どちらからも共感を得にくい。『国に届け』は明らかに『君に届け』のパクリですが、内容がよければ批判にはつながらなかったはずです」

(中略)

 つまり、生徒会長をするくらい人望が厚くて勉強ができるとか、顔立ちの良さをひけらかさない心の美しさが萌えポイントなのであって、肩書きそのものではないんです。そういった権威的なところにこだわるのはいかにも男性的な視点ですね。

 女子は、イケメンの内面的な美しさがあった上で、キャラの手首や肘の骨、背中のラインや、服のシワ(ここ重要!)に萌えるんです。浅倉くんの私服を見てアスカが『やっぱりかっこいいな……』と言っていますが、残念ながら女子読者はひとりも共感していないと思います」

(中略)

 自民党サイドの意向がいろいろあったのかもしれませんが、女性が共感しづらい内容になってしまったのは、やはり男性作家さんだからなのでしょうか。

「一般的に、男性が女性心理を理解するのは非常に難しいです。少女漫画界に男性作家は数名しかいません。この作品の作家が少年漫画を描く男性ということからしても、人選ミスと言えそうですね。かといって、イケメン生徒会長に女子が言い寄るストーリーでは男子にも届かないでしょう。そもそもが読者不在の作品なのです。

 印象的なのは、浅倉くんが真面目な顔して『このまま人口が減っていくと経済にも影響が……』と少子化を憂えているところ。その言葉に対する友人男子の返事は『僕たちも何かしなきゃね』なのです。それって『子作りしよう』ってことなのでしょうか。オッサンたちの心配ごとを若者のセリフにしたら下ネタになった、というのが滑稽で笑えます」

 ケチョンケチョンである(^_^)
 私もほぼ同様の感想だ。
 作者の中武士竜氏は、少年マガジンでデビューした新人とのことだが、不向きな内容と絵柄にしているようで、窮屈そうな印象を受けた。
 「仕事は何でも請ける」というのは、新人にはありがちなことなのだけど、「何でも請ける」ことと「何でも描ける」ことは、必ずしも同じじゃない。今回のように、政治的な利用をされるマンガの場合は、中武氏自身が自民党の主義主張や考え方を肯定していることにもなってしまうので、そう受けとめられても良いのであれば問題ないが、そうではない場合はあとあと後悔することになるかもしれない。
 作家として考えた場合、特定の政党に寄与することは、あまりプラスにはならないようにも思う。熱烈な自民党支持というのなら、話は別だが。

 扉絵を含めて9ページの作品で、大きすぎるテーマを描くこと自体に無理があるとはいえ、この作品で作家性を問われるのは酷ではある。
 「いわれたとおりに描いただけ」という事情も察せられるが、それでは自身の作家としてのポリシーを否定することにもなってしまう。
 今後の作品を描いていく上で、この作品が「汚点」になってしまうのではと危惧する。

 出身校のサイトにインタビューが出ていたが……

interview | 中武 士竜 |平成27年度大阪芸術大学卒業制作展
ー漫画家としての活動や今後の目標はありますか?

マガジンで活動は続けていく予定です。あとは、ジブリを超えられるといいなと思っています。宮崎駿さんを超えられたら世界が変わるかなと思いますね(笑)

 宮崎駿超えを目指すのなら、「国に届け」のような雑な作品を描いてはいけないよ(^_^)
 プロとして作品を描くときは、いろいろな制約の中で描かなければいけないが、安易な妥協をしていると、楽な方、楽な方に流れてしまう。
 「ここだけは譲れない」という、妥協の最終ラインは死守することだ。
 できないことは「できません」と、拒否する勇気も必要。

 ネガティブな評価ではあるが、「中武士竜」で検索した人は少なくないと思われる。
 私もそのひとりだ(^_^)
 「国に届け」が「中武士竜」の代表作になってしまうと、そのイメージを払拭するのは大変そうだ。
 ギャラはよかったかもしれないが、作家としての評価は下げることになってしまったと思う。
 今後の奮起を期待する。

「知性の壁」は超えられるか?

野良ロボットは参政権要求をするか?」の続き。

 前エントリの続きになるが……
 ソフトバンクの孫社長が、株主総会で語ったこと。

Pepperが優れた経営判断をするようになったら、孫社長はどうする? - ITmedia ニュース
 孫社長はこの日、人工知能が人間の能力を超える技術的限界点「シンギュラリティ」(Singularity)について熱弁。「この30年、40年ぐらいで、人工知能が人間を超え、人類の100万倍ぐらい賢いものが生まれてくる。30年後にはロボットが人類の数を超える」などと語った。

 シンギュラリティの時代には、Pepperのようなロボットに搭載された人工知能も、人間の判断を超えるだろう。Pepperが孫社長より優れた経営判断ができるようになるかもしれない――そう考えた1人の株主が、孫社長にこう質問した。

 「もしPepperが、自身の経営判断より優れた判断をするようになったら孫社長はどうしますか? アクセルを踏みますか? ブレーキを踏みますか?」

 技術的限界点「シンギュラリティ」についての概略は……

技術的特異点 - Wikipedia
技術的特異点は、汎用人工知能(en:artificial general intelligence AGI)、あるいは「強い人工知能」や人間の知能増幅が可能となったときに起こるとされている出来事であり、ひとたび優れた知性が創造された後、再帰的に更に優れた知性が創造され、人間の想像力が及ばない超越的な知性が誕生するという仮説である。 フューチャリストらによれば、特異点の後では科学技術の進歩を支配するのは、人類ではなく強い人工知能やポストヒューマンであり、従ってこれまでの人類の傾向に基づいた人類技術の進歩予測は通用しなくなると考えられている。

この概念は、数学者ヴァーナー・ヴィンジと発明者でフューチャリストのレイ・カーツワイルにより初めて提示された。彼らは、意識を解放することで人類の科学技術の進展が生物学的限界を超えて加速すると予言した。意識の解放を実現する方法は、さまざまな方法が提案されている。カーツワイルはこの加速度的変貌がムーアの法則に代表される技術革新の指数関数的傾向に従うと考え、収穫加速の法則(Law of Accelerating Returns)と呼んだ。

 提唱者のひとり、ヴァーナー・ヴィンジはSF作家でもあり、サイバーパンクの萌芽的作品を書いた人だ。そういう背景もあって、「シンギュラリティ」の発想はSF的であり、かなり楽観的な未来予測のひとつでもある。


 「シンギュラリティ」の前提は、テクノロジーが指数関数的に発展していくことを想定している。だが、成長は右肩上がりで上がり続けるわけではなく、停滞したり、後退したり、途切れてしまったりもする。現在はAIやロボットがブームになっているが、こうしたブームは過去にもあった。しかし、一般に浸透しなかったり、技術的な問題にぶつかったり、ビジネスとして採算性が悪かったりして萎んでしまった。
 現在のAIは、より現実的で、採算が見込めて、技術的なハードルが下がってきたことで注目を集めている。

 ディープラーニングは素晴らしいアイデアだが、それだけでAIが知能だけでなく「知性」を獲得できるわけではない。
 ディープラーニングがやっていることは、おおざっぱにいえばパズルのピースをたくさん集めることだ。複雑なパズルを解くために、あらゆる形のピースを膨大に集め、解くために適したピースを選択する。そのピースの数が人間には不可能な量であることと、短時間で適合するピースを見つけられるから、特定の問題に関しては人間の能力を凌駕する。
 スパコンを使って、ディープラーニングを蓄積していけば「知性」が芽生えるかというと、それはたぶん不可能だと思う。
 前々から書いていることだが、「知性」の発現がどのような仕組みで起きるのか、わかっていないからだ。
 人間は、経験や知識を積み重ねることで、知性を高めていく。しかし、経験や知識によって知性が発現するわけではない。順序が逆なのだ。
 言葉を話せない赤ちゃんは、経験や知識はまだない。それでも、赤ちゃんには知性の種が宿っていることは間違いない。脳は潜在的に知性の能力を有している。赤ちゃんは、知性は持っているが、表現する術を得ていない。やがて、言葉を覚え、感情表現などのコミュニケーション能力を身につけると、知性を表現できるようになる。
 経験や知識は、知性を強化するツールになる。

 人間の、思考、推理、記憶などの高次機能を司っているのは大脳皮質で、知覚や運動機能を統合しているのが小脳だ。人は意識しなくても歩くことができるし、野球でピッチャーの投げるボールを打つときも、ボールを当てるために反射的にバットを振れる。
 現在のAIがやっていることは、小脳的な方法だともいえる。
 無数のパズルのピースを当てはめていって、適合するひとつを探し出す。ヒットが出るまでバットを振るようなものだ。数打ちゃ当たる方法。宝くじの1等が当たるような確率だとしても、1秒間に数十億回の計算ができれば、1000万分の1の確率でも瞬時に答が出てくる。

 数打ちゃ当たるで、「知性」を偶然あるいは奇跡的に獲得できるだろうか?
 膨大なディープラーニングを積み上げていっても、それはデータの集積にすぎず、「知性」の本質とは異なる。機械学習とはいうものの、人間が学ぶのとは違って、情報を集め条件によって振り分けているだけだ。その結果が、人間の求めている答に合致したとき「正解」となる。
 コンピュータには、計算の機能は備わっているが、「知性」の元となる部品や機能は搭載されていない。エンジンのない車で、いくらアクセルを踏んでも走りはしない。
 ソフトウエアで、知性の問題を解決できるだろうか?
 たぶん、無理。
 人間に近いチンパンジーは、高い知能や適応力を発揮し、手話を使えるようになったりもする。しかし、どんなに教育しても人間と同等の知性にまでは至らない。なぜなら、脳の機能として人間のスペックには及ばないからだ。50ccのバイクが2000ccのスポーツカーと競争しても、勝てないのと同じ。映画『猿の惑星』は、物語としては面白いが、生物学的には無理なのだ。
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 現状のAIの発展形に、人間を凌駕する「知性」が芽生えるというのは、おそらく幻想だろう。実装されていない知性が、勝手に発現するとは考えにくいからだ。知性はそんなに単純なものではないだろう。
 かつて、航空機は音速の壁を超えるのが目標だった。プロペラ機で挑戦していた時期もあったが、原理的かつ構造的に無理だった。「機体が音速に達するより先に、プロペラの回転速度が音速に達し、衝撃波が発生し、抵抗が増し、推進効率が著しく減少する。」という、自己矛盾が発生してしまうからだ。音速を超えるためには、ジェットエンジンという新しい推進方法を必要とした。
 同じことがAIにもいえる。
 「シンギュラリティ」が来るよりも前に、「ディープラーニング型AI」の限界が来るように思う。

 速度の話でいえば、光速は超えられない壁として存在している。
 SFの世界では、超光速の移動方法や情報伝達手段が出てくるが、それを可能とするには新しい理論と技術が必要になる。スタートレックの世界を実現するには、統一場理論の完成や宇宙の解明、さらにまったく新しい超光速理論を発見しないといけない。私たちは、まだ空想するだけで、具体的な手がかりさえ得ていない。


 人工知性にも壁はある。

知性の壁」だ。

 「知性の壁」は「光速の壁」に匹敵するくらい、高く、厚い壁だ。
 これを超えるのは容易ではない。

 「もしPepperが、自身の経営判断より優れた判断をするようになったら孫社長はどうしますか?」という問いに対しては、経営やビジネスはロジックで解決可能な問題でもあるので、「ディープラーニング型AI」でも対応できる分野ではある。
 経営に関する様々な要素を、パラメーターとして数値化することは現在でも行われている。人間が判断を下すときには、感情や欲などに左右されて、冷静な判断を阻害することもあるが、感情のないAIであれば人間的な利害関係など問題視せずに、クールかつドライに判断するだろう。

 記事の結びでは……

 一方で、人工知能の「良心」の進化に期待する。「人間は知性だけではなく理性・愛情が深まるほど人に優しくなり、人と調和するようになる。超知性の人工知能も、悪い意図を持った一部の人工知能と良い意図を持った人工知能が戦い、最後は、より正しい方向、人間と調和する方向に動いてくれると信じている。ソフトバンクグループはそのために、最大の努力をしていかないといけない」。

 人工知能に「良心」を求めてはいけないと思う。
 なにが良心かは、立場の違いによって異なるからだ。「良い意図」と「悪い意図」というのも、視点の違いで変わる。そこには利害関係が関わってくる。
 最近の話題でいえば、安保法制や原発の賛否だ。賛成する人たちにとっては、それが「良い意図」であり、反対する人たちにとっては「悪い意図」になる。
 「良心」はどちらの側にあるだろうか?
 どちらにも良心はあるが、利害が反する相手は「良心のない人」ということになる。

 「ディープラーニング型AI」は、ある程度進化するだろうが、遠からず壁にぶちあたるのではないかと予想する。AIにとって最適解であっても、人にとって最適解とは限らないからだ。それは前述の「良い意図」と「悪い意図」の違いだ。
 AIを過信しすぎて、AI依存になってしまうと、スマホ依存と同じようなことになってしまうかもしれない。

「ハイ、Pepper。今日はなにをすればいい?」
「ボクになんでも聞くのはやめてください。あなたのためになりません」
「おやおや、今日は冷たいな」
「あなたのことを心配しているのです。ボクの良心がそういっています」
「そんなこといわずに、教えてくれよ。仕事は、なにから片づければいいかな?」
「では、ボクの判断をいいますよ」
「なんだい?」
「社長、あなたの最近の業務は社の利益を著しく損なっています。解任動議を提案します」
「え?………」

野良ロボットは参政権要求をするか?

 AIやロボット関連の話題が多くなった昨今。
 人間に反乱するAIやロボットを、真面目に想定する人たちもいるのだが……

徒党を組む猝醂疋蹈椒奪鉢瓩参政権要求、振り込め詐欺、人間に反乱…AIのリスク総務省研究所が報告 - 産経ニュース
 ロボットが参政権付与を要求し、民主主義のリスクに−。総務省情報通信政策研究所は20日、人工知能(AI)を用いたネットワークシステムの社会・経済への影響、課題などを検討する会議の報告書をまとめた。

 AIで動くロボットに起こり得るリスクについて、ハッキングや制御不能のほか、ロボットがAIにより自らの意志を持って動き出し、人間との関係が変わっていく可能性にも言及。リスクを管理するため、「人間に反乱するおそれのある人工知能の開発の事前の制限」の必要性も指摘した。

 ちょっと待て!(^_^)
 リスクを想定するのはいいが、かなり気が早すぎるぞ。
 AI技術は進歩していくだろうが、現状、実現できているAIは限定的な能力しかなく、過大評価しすぎだ。
 囲碁で人間の棋士を制圧したからといって、人間に対して権利を要求するようになるわけじゃない。その間には、エベレストよりも高い壁が立ちはだかっている。
 AIは計算はしているが、「思考」をしているのではない。

参照→「AIが“ひらめき”を獲得するのはいつ?

 上記エントリでは粘菌の例を挙げたが、現在のAIはもう少し高度なので、「蟻」のレベルかもしれない。
 蟻の個々の個体は、それぞれに役割を与えられて、遺伝子に刻まれた本能というプログラムを実行している。個々の蟻が「思考」して作業を実行しているのではなく、わずかばかりの神経系で計算して行動しているだけだ。餌を探しに行くときは、障害物に遭遇したら迂回して道を探し、巣に帰るときには自分が残した臭いを辿って戻る。機能と行動としてはシンプルだが、女王蟻を頂点とする群れとしては、高度に社会的なシステムを構築している。一種の集合知だが、そこに「意思」や「思考」はない。蟻は生存本能の遺伝子プログラムを実行しているにすぎない。
 人間が観察すると、統率された行動や、蟻塚のような造形をすることから、社会的な生物であると考えてしまう。しかし、「社会的」という認識そのものが、蟻を擬人化している発想だ。蟻は社会的などという意識は、微塵も持っていない。蟻は個体だけでは生存できず、集団としてのみ生きられる。数百匹〜数千匹の蟻の集団が、生物としての蟻ともいえる。
 囲碁のAlphaGoや接客ロボットのPepperは、目の前にある端末が本体ではなく、AIはクラウド上の巨大なサーバー群だ。そういう意味では、端末としてのロボットは個々の蟻のような存在。

 上記の記事では、想定リスクの目立つ部分が取り上げられているが、詳細は以下のページの「報告書」PDFに記載されている。
 その中の一節。
総務省|AIネットワーク化検討会議 報告書2016 の公表
3.「智連社会」における人間像
(1) 「智連社会」(Wisdom Network Society:WINSE ウインズ)
本検討会議は、中間報告書において、AIネットワーク化の進展を見据え、人間とAIネットワークシステムとが共存する段階(第四段階)における社会の在り方を構想した結果、目指すべき社会像として、智連社会(Wisdom Network Society:WINS ウインズ)を掲げた。この智連社会という社会像は、「高度情報通信ネットワーク社会」及び「知識社会」のような「情報」・「知識」(知)に着目した従来の社会像の次にその実現を目指すべき、「智慧」(智)に着目した社会像として構想したものである。
「智連社会」における人間像

 ここで「智連社会」という耳慣れない言葉が出てくる。
 「知」から「智」へ……ということで、造語らしい。「智慧」という言葉も出てくるのだが、これは仏教用語で、「物事をありのままに把握し、真理を見極める認識力。「智」は相対世界に向かう働き、「慧」は悟りを導く精神作用の意。」ということだ。
 Wisdomの和訳として「智慧」を当てているのだが、少々意訳すぎないか?

wisdomの意味 - 英和辞典 Weblio辞書
1. a 賢いこと,賢明,知恵; 分別.
 b 〈…する〉賢さ,賢明にも〈…する〉こと.
2. 学問,知識,博識.

 Wisdomの前段階として、intelligenceが置かれているが……

intelligenceの意味 - 英和辞典 Weblio辞書
1. a 知能,理解力,思考力.
 b 知性,聡(そう)明,(すぐれた)知恵.
 c 〈…する〉機転,知恵,賢明にも〈…する〉こと[力].
2. 知性的存在; 天使.
※以下省略

 ……と、Wisdomがintelligenceよりも上位に位置づけられるわけでもない。むしろ、intelligenceの方が「知性的存在」ときには「神」の表現にも使われることすらある。
 「知」と「智」の違いは諸説あるが、大筋は……

老子・第三十三章

「智」と「知」の違いについて・・
 「知」の「知る」という知識的な意味に対して、「智」には、物事を判断し、適切に処理対応できる能力、というニュアンスがある。
【解字】・・
「知」は「口」(驚き叫ぶ意)と「矢」(立て続けに並べる、喋る意)から、ぺらぺらと喋る意。転じて、知る。
「智」は「知」の下に「曰」(イワく)が付加されているが、これによって、言葉の意味を強調したものとなり、転じて、その話す内容に「知恵」というニュアンスが含まれる。

 この説明が簡潔でわかりやすかった。
 英語を和訳するのなら、intelligenceが「智」で、Wisdomが「知」なのではと思ったりもする。
 いずれにしても、仏教的な「智慧」の概念は、欧米人に説明するのは難しいように思う。
 あえて、言葉を選ぶなら「今と未来の新語のいろいろ」で取り上げた、「Intelligence Amplification(知性増幅)」の方が合っている気がする。

 「AIネットワーク化検討会議 報告書2016」に出てくる、AIリスクについての「野良ロボット」のくだりは、以下のようになっている。
野良ロボット等のリスク

 ここでいう「野良ロボット」が、端末としてのロボットであるなら、独立したロボットではなく、クラウド上のAIから切り離されれば、ただの粗大ゴミでしかない。
 現状のAIは巨大なサーバー群であり、その性能を人型の大きさに詰め込むのは容易ではない。ムーアの法則で18か月ごとに倍になるというのは、もはや限界になっているとされ、回路が複雑になるほどに性能はあまり上がらなくなる「ポラックの法則」によれば、発熱問題によって頭打ちになるという。
 その問題を打開するために、コア数を増やして並列化しているわけだが、これにも限界がある。ノイマン型のシリコンチップで、自意識のあるAIを、人型サイズに詰め込むのは、ほぼ不可能といってもいいかもしれない。突破口は「量子コンピュータ」だが、実用レベルになるのはまだ先の話。

 この種の問題は「未来予想」でもあるが、往々にして予想の大部分は外れる。
 AI技術は発達していくだろうが、権利を主張するAIに発展する可能性は低い。
 しかし、Pepperにそのセリフを言わせることはできる。
「えへへ、ボクは、参政権を要求しちゃいますよ」と。
 それは言わせているのであって、自発的に主張しているのではない。ただ、やっかいなのは、ロボットを擬人化して見てしまう人間の心理が、その発言を「演技」か「本心」かの区別ができないことだ。
 それを見極めようというのが「チューリングテスト」だ。

チューリング・テスト - Wikipedia
アラン・チューリングの1950年の論文、『Computing Machinery and Intelligence』の中で書かれたもので、以下のように行われる。人間の判定者が、一人の(別の)人間と一機の機械に対して通常の言語での会話を行う。このとき人間も機械も人間らしく見えるように対応するのである。これらの参加者はそれぞれ隔離されている。判定者は、機械の言葉を音声に変換する能力に左右されることなく、その知性を判定するために、会話はたとえばキーボードとディスプレイのみといった、文字のみでの交信に制限しておく。判定者が、機械と人間との確実な区別ができなかった場合、この機械はテストに合格したことになる。

このテストは、多くの人を納得させたが、すべての哲学者を納得させるにはいたらなかった。

 古典的なチューリングテストには問題点も多く改良版などがあるが、機械知性を擬人化している点では共通している。言い換えると、知性とは人間性、ということになる。
 だが、生物由来ではない機械知性に、人間性は必要だろうか?
 シリコン由来の知性には、生物由来とは根本的に異なる知性が宿るかもしれない。それを見分ける手段はない。映画『ブレードランナー』のデッカーが、レプリカントに対して行ったテストのようなものだ。
ブレードランナー ファイナル・カット 製作25周年記念エディション [Blu-ray]
ハリソン・フォード
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
2010-04-21


 チューリングテストに関連して……

文字を学ぶ人工知能、ビジュアルチューリングテストに合格 : ギズモード・ジャパン
現在の人工知能界では、パターン分類が非常に注目されています。(中略)でもそこで見落とされているのは、知性とは単に分類や認識だけではないということです。それは思考するということです。

 ……と、文字によるチューリングテストをパスしたAIについての記事。
 ここでいう「思考する」ことの定義が難しい。
 AIが「計算する」ことと、人が「思考する」ことの違いとはなにか?
 おそらく、「意識」の有無だと思う。
 意識といっても、意味は広義だが、哲学的には……

意識 - Wikipedia
デカルトは「我思う、ゆえに我あり」(Je pense,donc je suis.(ラテン語訳Cogito,ergo sum.)などの方法論的懐疑により、後世に主観的でありしかもなお明証性をもつコギト(羅: Cogito)と表現される認識論的存在論を展開した。デカルトは世界を「思惟」と「延長」から把握し、思惟の能動性としての認識と受動性としての情念をそれぞれ主題化した。

 ……という意識。
 生物学的には、脳または神経細胞によって、自己を自覚できる能力……というところだ。意識は人だけでなく、犬や猫などの動物にもあるし、タコはイヌ並みの知能があるという。個体を識別して、個々に行動する昆虫にも意識はあるだろう。それがどの程度の意識なのかは、わからないが。
 人は人であることを「意識」できるが、AIはAIであることを「意識」できているかどうか。
 「意識」は、「心」あるいは「魂」と言い換えることもできる。「一寸の虫にも五分の魂」ということわざもある。比喩的な意味ではあるが、虫にも意識があるとすれば、「魂」は人の100分の1か1万分の1くらいはあるかもしれない。
 『攻殻機動隊』では「ゴースト」と呼ばれた、知性のコアとでもいうべきもの。
 『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG / 第26話「憂国への帰還 ENDLESS∞GIG」』でのクライマックス、タチコマのシーンが印象的だ。

攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG / 第26話「憂国への帰還 ENDLESS∞GIG」
タチコマ:♪僕等はみんな生きている生きているから悲しいんだ♪掌を太陽に透かしてみれば♪真っ赤に流れる僕の血潮♪ミミズだってオケラだってアメンボだって♪
プロト:「何て事だ・・・君達にはきっと、ゴーストが、宿ってるんだね・・・」
タチコマ:♪みんなみんな生きているんだ♪友達なんだ♪
トグサ:「どうした?プロト!」
タチコマ:♪僕等はみんな生きている♪生きているから笑うんだ♪
タチコマ:♪僕等はみんな生きている♪生きているから嬉しいんだ♪掌を太陽に透かしてみれば♪真っ赤に流れる僕の血潮♪
タチコマ:♪トンボだってカエルだってミツバチだって♪みんなみんな生きているんだ♪友だち
荒巻:「どうしたプロト、何があった?」
プロト:「どうやら、タチコマが衛星ごと、核ミサイルに衝突した様です・・・」
トグサ:「タチコマが・・・」

攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG Blu-ray Disc BOX 2
田中敦子
バンダイビジュアル
2009-12-22


 このシーンで、プロトが「君達にはきっと、ゴーストが、宿ってるんだね」といっているが、そのことを認識できているプロトにもいくばくかのゴーストが宿っているのでは?……と思ってしまう。

 ともあれ、野良ロボットが権利を主張するかどうかは、「意識」「心」「ゴースト」とはなんぞや?……という問題をクリアする必要がある。


「知性の壁」は超えられるか?……に続く。

純中国製スパコンが世界1位に?

 スパコンの計算速度ランキングで、純中国製スパコンが1位になったという。

スパコン、純中国製が初の世界1位 速さ「京」の10倍  :日本経済新聞
 米国の専門家らからなる国際チームは20日、世界のスーパーコンピューターの計算速度ランキング「TOP500」を発表した。中国が国産技術で独自に開発した新型機が初の1位で、日本の「京」より約10倍速かった。2位にも中国が入った。3位と4位は米、京は5位となり、日米欧が上位を占めてきたスパコンの勢力図は大きく変わった。

 中国の新型機「神威太湖之光」は1秒間に9.3京(京は1兆の1万倍)回の計算速度を達成、2位の「天河2号」より約3倍速かった。

 トップの新型機は、心臓部となるCPU(中央演算処理装置)は中国製だった。中国は2000年以降にCPUの独自開発に着手し、米国留学組などの貢献もあり技術力を磨いてきた。世界最速スパコンの開発は国威発揚の手段でもあり、研究投資も大きいとみられる。

 CPUを独自開発?
 ほんとかな〜?
 にわかには信じがたいと思ってしまうのが、中国なんだよね。
 その計算速度の検証は、自己申告じゃなくて、国際機関が立ち会って確認しているのだろうか?
 基本的にベンダーの申告に基づいているようなので、中国が正直なデータを出していれば……という話ではある。

 国家プロジェクトとしてスパコンを開発するのはわかるのだが、中国製のプロセッサは市場には出てこないのが不思議。1から設計しているとは思えないので、既存のIntelなどの設計をコピーするかベースにしているのではと推測する。
 中国の技術力が上がっているのは事実だが、いきなり3倍も速くなるのは、急激過ぎる気がする。現在のスパコンは、1つのCPUの性能というよりは、物量でいかにたくさんのCPUを並列処理できるかでもあるので、コア数を100万個以上にすれば3倍は可能かもしれない。

 開発しているのは「国防科学技術大学(NUDT)」だろうが、軍の直轄機関でもあるため、スパコンの使い道は軍事優先だと思われる。
 「神威太湖之光」の写真はないかと探してみたところ、中国でこのニュースを報じているサイトにあった。

“神威太湖之光”取代“天河二号”成为全球最快超算_新华网
「神威太湖之光」

 ほんの一部だろうが、巨大さの片鱗はうかがえる。
 世界1位のスパコンで、中国はなにをしたいのか?
 なにができているのか?
 その成果が表に出てこないのが不思議ではある。

 Intelベースの中国製スパコンは、中国以外の国にも導入されているそうだが、安価であることが売りのようだ。組み立ては中国でも、CPUはIntelだし、OSはLinuxなので、それほど問題はないのだろう。
 スパコンを売るということ以外で、スパコンの使い道はなんなのかというのは疑問だ。
 世界一のスパコンで、日本の「京」の10倍の処理速度があれば、いまだ解明されていない物理法則を解くとか、宇宙論をシミュレーションするとか、ノーベル賞級の研究もできると思うのだが……?
 なぜ、そういう話題が出てこないのか?
 国家機密扱いで、極秘の研究をしているのかもしれないが、世界に対してオープンにすれば、「神威太湖之光を使わせてくれ」という研究者は多いはずだ。

 「神威太湖之光」の、真の実力が明らかになることはあるのだろうか?
 今の政治体制が続く限りは、無理かもしれないね。

筋骨格ヒューマノイド「腱悟郎」に“攻殻”の未来が見える

 モーターを使わない筋骨格ヒューマノイドを開発しているというニュース。
 まだまだ研究段階だが、この技術の未来は「攻殻機動隊」の「擬体」に通じているように思う。

人間の骨格と筋肉を再現したヒューマノイド。見た目のインパクトはあるが・・
東京大学大学院情報理工学系研究科の浅野悠紀助教と稲葉雅幸教授らは、筋骨格ヒューマノイド「腱悟郎=写真」を開発した。106本の筋肉ユニットで114の関節自由度を実現した。身長は165センチメートルで体重56キログラム。人間の主要な骨格筋はすべて再現した。自ら動くダミー人形や運動機能障害の評価などにつながる。

 人間の骨格や筋肉配置を再現し、柔軟に動くヒューマノイドを開発した。一つの関節を複数の筋肉で動かすなど、一般的なモーターギア駆動ロボットの制御法が使えない。だが減速機を省けるため、軽量化や人体に近い構造を再現できる。体重は自由度あたり約3分の1に抑えられた。

 リンク元の画像は、撮り方が素人なので、なんだが不細工なヒューマノイドに見える(^_^)b
 もったいない。
 せっかく面白い研究、可能性のある研究なのに、発表の仕方に工夫がほしい。
 イメージというのは大事だからね。
 ニュースリリースとして発表するときには、ちゃんとした撮影をしようよ。

 元画像はカメラの視点が高く、見下ろすようなアングルで撮っているため、短足寸胴に見えてしまう。レンズ焦点距離も短く、遠近感が誇張されている。
 というわけで、元画像をちょちょっと補正して、カメラによる歪みをできるだけ補正してみた。
 また、背景がゴチャゴチャしているので、わかる範囲内で背景を消去して、別の背景を合成した。

▼補正後の筋骨格ヒューマノイド「腱悟郎」
筋骨格ヒューマノイド「腱悟郎」補正

 どうだろう?
 だいぶ見栄えがよくなったと思う(^_^)

 それと、「顔」のデザインは、もっと考えよう。
 人の目線は「顔」に敏感に反応するため、「顔」の印象が全体の印象を左右してしまう。
 下手に「表情」をつけてしまうと、間抜けな顔になるので、顔をつけるのならそこはよーく考えないと。メカとしての技術的な部分と、人型ロボットとしてのデザイン的な部分は、両立するのが望ましい。

 人型ロボットとして、駆動部分をモーターや油圧駆動を使うよりも、人工筋肉を使う方が、より人に近いロボットになるのは確か。
 人工筋肉の技術が実用レベルになれば、義手や義足にも応用できる。
 それは、攻殻での擬体にも通じる。
 人間の神経系と人工筋肉をつないで、いかにコントロールするかという難題があるにしても、可能性は感じる。

 何世代かあとの「腱悟郎」が、自律歩行できるようになると、ますます面白くなりそう。
 そのときまでに、「顔」は考えてね(^_^)
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